大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(う)430号 判決

被告人 石田省一

〔抄 録〕

ところで、本件土地については、共有者である沢村賢二、同千里の両名から被告人にその所有権が移転した事実のないことが明らかであることは、前認定のとおりであるとしても、被告人が本件土地上に搬入し、埋立てた土砂と、その土砂の上に生育した本件くるみの木がともに、民法第二四二条による附合の原理によりその土地と一体をなすことによって、これらの所有権が直ちに本件土地の所有者である沢村賢二、両千里の共有に帰属するものと解すべきか否かにつき一考すると、既に認定したような、本件土地の売買交渉に関する一連の経過、とくに被告人としては、該経過を通じ本件土地を買受けられると信じ(その信じたことは、無理からぬところと認められる。)、本件土地上に自費をもって相当量の土砂を搬入して埋立てたこと、本件くるみの木は、被告人所有の土地上に生育しているくるみの親木の実が右埋立てた土砂の上に落ちて自生したものであることなど、これらの特殊の事情のある本件の場合、沢村賢二らが、被告人の埋立てた土砂および本件くるみの木の各所有権を直ちに附合の原理により取得するものと解することには合理的な疑いを抱かざるをえず、なかんずく、本件くるみの木については、その疑いが強い。そうとすれば、右土砂およびくるみの木の所有権の帰属いかんは、最終的には民事裁判によって決定すべき未解決の問題といわざるをえないとしても、少くとも本件くるみの木については、客観的に刑法第二六一条にいわゆる「他人の物」であるという構成要件事実の存在について、これを認めるに足る証明十分でないというべく、仮りに本件くるみの木の所有権が附合により沢村賢二らの取得するところとなったとしても、本件における前記のような特殊の諸事情に加え、被告人の認識として、本件くるみの木が沢村賢二らの共有ではなく、被告人の所有であると思っていたことが前認定のとおりである以上、被告人は、本件くるみの木の伐採当時においては、該くるみの木が自己の所有に属すると誤信していたことになり、右錯誤の結果、沢村賢二らの共有に属する物を損壊することについての犯意を認めるに足る証明十分でないといわねばならない。

(石田一 菅間 柳原)

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